そろそろ花見の時期だ。日本人は総じて花を愛でるのが好きな民族ではあるが、花見といえば、梅やツツジ、花ショウブやアジサイではなく、何が何でも「桜」である。
 桜の木の下で舞い落ちる花びらに思いを馳せ、美酒を飲みかわし、旬の料理に舌鼓を打つのも立派なアウトドアだといえる。日頃は「キャンプやハイキングなどには行かない」という人も、年に一度、花見の時だけは例外的に屋外での会食を楽しまれているのではないだろうか。
 ここで力を発揮するのが、キャンプ用品だ。軽量でコンパクト、多機能なアイテムたちは、花見の席でも大いに活躍してくれる。
 まず、夜桜の宴に必須なのが、銀マットとかアルミマットとか呼ばれている発泡ウレタンのシート。3月下旬から4月上旬の夜は、まだまだ冷える。尻の下からズンズンと冷気が這い上がってくるが、安価なこのシートはかなり優秀にそれをシャットアウトしてくれる。ただし、表面の銀色があまりに風情がないので、上に布の敷物などを重ねるといいだろう。さらに、シュラフを持っている人は腰まで入り、上からフリースとウインドブレーカーを着ておけば、この時期の防寒としては万全だ。特に「腰までシュラフ」の効果は抜群。寒いのが苦手な人ほど、その暖かさに感動するはずである。
 このほか、灯りのない場所で夜桜を楽しむならランタンが活躍するし、キャンプ用の食器セットなども重宝する。花見というと紙皿に紙コップ、割り箸のイメージだが、なるべくゴミを出さない花見をするのも当世流といえるのではないだろうか。せめて、マイ箸とマイコップを持ち寄るというのは、ぜひおすすめしたいルールだ。
 さて、道具だけではなく、アウトドアのキャリアは食事にも生きることになる。花見での食事というと、一般的には鉢盛りやお弁当が多いようだ。これらのおかずは揚げ物や焼き物が中心だが、冷えきって夜露にぬれた海老フライや一口カツ、唐揚げ、油が固まりかけたハンバーグなどはどうもいただけない。炭火の使用が許可されているところなら、小型の卓上七輪を持ち込んで、焼き鳥や出始めのタケノコ、シイタケなどを焼きながら、熱燗をやるのが最高である。頬をなでる冷たい北風と、ぬくぬくとシュラフにくるまった下半身、ぽかぽかと内から暖まってくる日本酒の組み合わせは、まるで雪景色の中で温泉に浸かっているような気持ちよさである。まあ、他の人は知らないが、少なくとも私はそう感じる。
 もっと贅沢をするのなら、和風の豚汁、だご汁、あるいは洋風のクラムチャウダーなどのアツアツ汁物を仕込んでおくと、感激を極めることになる。白い息を吐きながら、ハフハフやる喜びは何ものにも代え難い、と私は思う。大事をして道具を持ち込むのが面倒だというのなら、保温性の高い水筒に熱湯を入れてきて、マイカップでインスタントのみそ汁やスープを作ってみよう。それだけでも、暖かい飲み物のすばらしさを実感できるはずである。
 「何でわざわざ寒い日に出かけていって、そんなことせにゃならんのだ」と思う人は、一生こたつに入って夜桜のテレビ中継でも見ていなさい。



アウト道(24)

花見も立派なアウトドア

活躍する野外アイテム

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