川が好きだ。ヤマメやイワナがいそうな源流近くの渓流もいいが、太古からの流れを残す、うねった中流域の河原も好きだ。自然と人間との接点として存在し続ける川の佇まいに、心がとらわれるのだ。
 地図でお目当ての川を探し、川を遡りながらキャンプ地を探すというのがお気に入りのパターン。今回は、何となく四国に行ってみたいと思い、四国といえば四万十川だよなと地図を眺めていた時、四万十川の北東に「ゾクっ」とするような川のうねりを見つけた。峠道のヘアピンカーブのように、180度に折れ曲がっている。これはまさしく、人間の手が入っていない自然の川である証拠。うねうねと無秩序に、気ままに曲がりくねっている様は、水の流れの意思だけでその形を変えてきた川であることを象徴していた。
 地図には仁淀川と書いてあった。源流は愛媛県の石鎚山。そこから四国山地を抜け、南へと下り、高知県の土佐湾へと注ぎこんでいる。ネットで調べてみると、長さ125kmで、吉野川、四万十川に次ぐ、四国で3番目に長い川だと紹介されていた。しかも、「水質は四国一」などと書いてある。こうなれば、行かないわけにはいかない。
 地図だけを頼りに、熊本を出発。竹田市経由で大分県臼杵市に出て、フェリーで四国の八幡浜に渡る。漁港の脇の店でサザエとミズイカ、アジを仕入れ、そこから国道197号を南東に下り、仁淀川の河口である土佐市に入った。車での走行距離約250km。熊本を明け方4時に出て、土佐市のスーパーで初ガツオのタタキを買ったのが午後12時を過ぎていた。
 そこから、仁淀川の上流へ向かって走る。最初の目的地は、地図で見つけたヘアピンカーブ。車の窓から川の土手を確認しつつ、平行して北上する。
 土佐市の市街地から10分も走ると、川は何ともいい感じになってきた。広い中州や自然の土手、そして大きくカーブした川の流れの内側にはうっとりするような河原が広がっている。キャンプできそうな場所はいくらでも見つかったが、欲が出て「上流にはもっといい場所があるかも」とさらに車を走らせる。
 そして、お目当てのヘアピンカーブ。想像通りに、とてつもなく広い河原が横たわっていた。しかし、民家や電信柱など、ほんのわずかな人工物が目につく。こうなれば、視界に一切人の手が加わったものが見えない場所で野営をしようと、さらに上流へ。
 結局、河口から40キロほど上流にとびきりの河原を見つけた。あつらえ向きの砂地があって、木陰があって、自然林の山に囲まれた場所だ。当然誰もおらず、交通量のある国道からも離れているので、静かなことこの上ない。水も評判通り、とてもきれいだ。でも、地名はあえて書くまい。なぜなら、自分で河原を探し出すのが楽しいのである。その楽しみを奪うような野暮は避けるべきだろう。
 地図を眺めながら、まだ見ぬ川を想像する楽しみ。実際に現地を訪れ、居心地のいい場所を探す楽しみ。そして、焚き火、水遊び、美しい星空。川のキャンプは、楽しみが長く持続するのがいい。

アウト道(14)

楽しみ尽きない川のキャンプ

美しい川にうっとり

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