枕崎と言えば、カツオ。ヘロヘロの私たちを彼が迎えてくれました
行強の荷揚げ桟橋の前に着岸。荷物をビジネスホテルまで運びました
おびただしい数のロープを船首と船尾から張り巡らします。もちろん、台風対策
物珍しさで集まってきた人たち。とにかく、台風の勢力に対して、私のボートははかなくも小さい
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早朝、しかも日曜日の枕崎港はほとんど人影もない。上陸後、近くに公衆トイレを発見したので、用を足し、水道の水を頭からかぶった。体から潮気がとれると、いくらか元気が出てきた。
時間はたっぷりあるので、岸壁に座り込んで人を待った。1時間後に漁師風のおじさんに遭遇。そこで港の西奥に小型船の係留場所がある事、宿はこの水揚場のすぐそばにあるとの情報を得た。
数日の滞在は間違いなかった。テントを張るような状況ではないので、どこか泊まる場所を確保しなければいけない。今いる場所から宿が近いのなら、先に荷物を運び込んでおこうという事になった。
電話帳で番号を調べて空室を確認、荷物だけは先に預かってくれるという事だったので、ボートから主だったものを降ろし、5分ほどの道のりを2往復して1泊3500円のビジネスホテルに運び入れた。
次はボートである。軽くなった艇に再度乗り込んで、港の奥を目指す。
しかし、その岸壁はおびただしい数の漁船で占領されていた。しかも、台風対策で各船が船尾から対岸に舫いをとっている。つまり港中にロープが張り巡らされているのである。とてもまともに走れる状況ではない。途中からチルチアップとチルトダウン、エンジン停止と始動を繰り返しながら、何とか岸壁までたどり着く。
「ここは泊められんぞ」
着岸するなり、網の手入れをしていたおじさんにガツンと言われる。
それでも「熊本から来たんです。他に行くところがないんですぅ」と泣きついたら、対岸を指差して「あっちならいいかも知れん」と教えてくれた。
岸壁沿いはペラをまわせる状態ではないので、チルトアップしたままボートを手で引っ張って歩く。やっとあみだ状のロープが途切れたところでボートに乗り込み、対岸へ。
「ここに泊めさせてもらいたいんですけど」
絶対に断わらせないぞ、という気迫を込めて作業をしているおじさんに声を掛けた。
「どっから来たの」
「熊本です」
「トレーラーで?」
「いえ、自走です」
「今日、この海の中を?」
「九州一周中なんです」
「この船で?」
潮まみれでまだらになった服と、バサバサの髪、赤茶けた顔の色は哀愁を誘うに十分だったのだろう。
「今、俺の船を陸上げするから、この場所を使えばいい。舫いはここに取ればいいから。ブイはあれ」
抱きついてキスしたい気持ちだった。ボートを安心して泊める場所が見つからない限り、落ち着いて飯も喰えないのである。
「明日、対岸に船尾から舫いをとった方がいい。ここの台風はすごいぞ。ロープはあるか?」
あ〜あ、なんていい人。抱きつきたいのをグッと堪え「あります、あります」と答えた。
言われた通りに舫いを取っていると、物珍し気にみんなが集まってきた。
「このボートで来たのぉ」
「熊本ぉ?」
「九州一周?」
可愛らしいイントネーションの言葉が聞こえてくる。
「学生かい?」
これも今回の航海中に何度も繰り返された質問だった。 「いいえ、一応働いてます。もうすぐ40になります」
この答えに対しては、頭からつま先まで視線が移動して「へえ〜」というのがパターンだった。
(つづく)
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