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佐多岬の向こうはうねりの壁


あまりの状況に、写真を撮る余裕はありませんでした


































 

 佐多岬をクリアすると、今度は右斜め後ろから波を受ける事になった。しかも、うねりのサイズはさらに大きくなってきている。台風7号の余波がおさまらないうちに、8号の影響が出始めているのだ。頭上にも南から重苦しい雲がどんどん流れてくる。沖縄の南で発生して真直ぐに北上、鹿児島の西をかすめて通 っていった7号と、全く同じルートを8号もたどっているのである。それもこれも、元気のない大平洋高気圧のせいだ。

 「神様、欲は言いません。お願いですから志布志までは行かせて下さい」

 行った先でまた足留めをくうことは分っていた。しかし、すでに3日も枕崎で滞在を余儀なくされており、動ける時に少しでも前に進んでおきたいという気持ちがあった。その気持ちが強くなり過ぎると冷静な判断を欠き、大きな危険を招きかねないことも分っているつもりだったが、この日のコンディションはそのギリギリの線で「GO」だと考えたのである。

 だが、山のようなうねりが背後から襲い掛かってくる状況の中で、ずぶ濡れになりながらリモコンを忙しく動かしていると「本当に大丈夫か」の自問自答は絶えず繰り返される事になった。佐多岬を回れば志布志湾に入るまでは港らしい港もない。海岸線は切り立った断崖が続いている。エンジントラブルでも起こして、波に運ばれれば激突して木っ端微塵。この断崖はうねりを打ち返し、その返し波がまたうねりとぶつかって、質の悪い三角波を作っている。沖出しした方が走りやすいだろうと海岸線から離れて走るものの、それはそれで不安だ。

 うねりは大きいものだと4〜5mには達していた。波間に落ち込むと、周囲は全て波の壁となる。陸地も水平線も見えない。わずか頭上に薄暗い空が見えるだけである。うねりに追い越される時は、エンジンが苦しそうにうめき声を上げていた。逆に斜めに下る時は、ジェットコースターのように一気に滑り落ちていく。風は東にシフトし、真横から受ける形。当然、波は思いっきりかぶるようになる。回転数は4000回転前後。平均速度は10ノット前後である。(つづく)


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