佐多岬沖で鳥山に遭遇。ヒコーキを流したら、すぐにシイラが食ってきた。
記念写真は立っていられなかったので、ちょっと女性っぽいです
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岬のちょうど真南に差し掛かった頃、頭上に鳥を発見。4〜5羽がぐるぐると旋回しながら、海中の様子をうかがっている。鳥はかなり本気で、食い気満々。間違いなく小魚を狙っている。ということは…。
回転数を落とし、高橋さんに操船を代わってもらって、坊津沖で不発に終わっていたヒコーキのセットを取り出す。
「ちょっとだけ、やってみましょう」
「……」
高橋さんは「こんな状況でトローリングなんてやるなよ〜」という顔をしている。でも、我慢できなかった。ラインの端をスターンのパルピットに結び付けると、ステアリングを握り、今来た方向へ転針。波、風を横から受けるとボートはさらに大きくローリングを始める。
「前へ進みましょうよ」というのが、高橋さんの本音だったに違いない。これだけ苦労して進んできたルートを魚のために逆戻りするなどというのは、正気の沙汰ではないのだ。
とても後ろ向きで操船できるような状態ではないので、頻繁に後ろを振り返りながら鳥山を追う。
「あっ、沈んだ」
踏ん張りつつ、流したヒコーキを凝視していた高橋さんがつぶやいた。流し始めて、まだ2〜3分だ。振り返ると、確かに大きな波の山を見え隠れしながら上ったり降りたりしていた赤いヒコーキの姿が見えない。リモコンをニュートラルに戻し、ラインを手繰ってみる。
「きてる〜ッ!」
思わず、歓喜の雄叫びを上げてしまった。さらにラインを引き寄せると、グイグイという強烈な手応えが伝わってくる。
「シイラですね」
できるだけ冷静を装って高橋さんに告げた。カツオでなかったのはちょっと残念だが、この航海が始まって初めての釣果
である。正直言って、かなり興奮していた。高橋さんも右へ左へ、前へ後ろへ揺れ動くボートの上で、使い捨ての防水カメラを取り出し、シャッターチャンスを狙っている。手前へ引き寄せてくると、紺碧の海に黄緑色の魚体が鮮やかに反射した。しかも、1匹ではない。3〜4匹がヒットした魚と一緒にルアーを追ってきている。
「やった!」
80cmクラスのシイラを取り込むと、二人で握手。そして記念撮影。
かなり魚影は濃いようだ。1本目をリリースすると「もう1本だけ」という欲が出てきた。再度、流し始めると、これもすぐにヒット。今度はさらに強烈な引きだ。素手にラインが食い込む快感を楽しみながら、左右に逃げまどうシイラをゆっくりとたぐり寄せる。上がってきたのは1mオーバー。バタつく魚体を押さえ付けながらルアーを口元から外すと、これもリリースした。
「あっ」
考えてみれば、これは晩飯のおかずだったのである。シイラ=リリース、というパターンが自分の中で定着していたが、「食材の現地調達」「地の魚を堪能する」ことを目的とした航海なのだから、これはクーラーの中に入れるべきだったのである。
「それならばもう1匹」とも思ったが、高橋さんは止めたボートの揺れに多少酔った様子。波の具合もだんだん悪くなってきていたので、後ろ髪を引かれる思いで針路を元に戻す事にした。
(つづく)
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