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台風7号と8号の合間


立神瀬
を背に枕崎港を出発。目の前にあるのは不安と高い波だけ













いや〜な感じの空
。よく分からないかもしれないけど、陸地が見えないくらいに、うねりは大きい



















きれいな稜線を持つ開聞岳。しかし、見とれる余裕もない

 

 ノースリーブのシャツに短パン、スポーツサンダルにタオルの鉢巻き。そして桜印のライジャケ。
  8月5日、午前9時40分、鹿児島県枕崎港を出港した時のいでたちである。台風7号の余波が残る大平洋を、佐多岬まで南下し、そこから九州の東海岸を北上、志布志湾へ。距離にすれば佐多岬までが約24マイル、佐多岬から志布志湾までが約33マイルだから、大した距離ではない。コンディションさえ良ければ2時間半もあればたどり着ける行程だ。

 しかし、コンディションは良くないのである。台風一過、空は気持ち良く晴れ渡っているものの、うねりを伴った波が2〜3m、風は南東から8〜10mが吹いている。真向かいから風と波を受ける格好で、頭からスプレーをかぶるのは必至、このいでたちも全身びしょ濡れになる事を覚悟のコーディネートだ。
 枕崎港の沖合いにある立神瀬という細長くそびえ立つ奇岩を背に、一路南南東、佐多岬沖にラムラインをとる。4500回転、14ノット前後での走航だ。忙しくリモコンを動かしながら着水時のショックを最小限に食い止めようとするが、それでも時折、脳天を突き抜けるような衝撃が走る。そのたびに、ボートの方もブルブルと体を震わせている。こういう状態が続けば、パルピットなどのタッピングが吹っ飛んでしまうかもしれない。かといって、あまりスピードを落とすわけにもいかず、体とボートに極端な負荷を掛けないギリギリのところで回転数を調整する。

 10時の方向に少し煙った開聞岳が見える。富士山に似た美しい稜線を持つ標高922mの海に面 した独立峰だ。どの角度から見ても同じ円錐形をしているから、ボートが進んでも山の形が変わらない。
「開聞岳ですね」
「そうですね」
「もうすぐ長崎鼻です」
「はあ」

 どうも会話がはずまない。実際、それどころではないのである。同乗の高橋カメラマンは、両足を大きく踏ん張り、左手でコンソール上のハンドレール、右手でサイドのパルピットをしっかりと握り締め、波がくるたびに膝でクッションをとって衝撃を逃がす動作を繰り返している。メガネからはポタポタと潮水が滴り落ちているが、それをぬ ぐう余裕もない。
 午前11時30分、薩摩半島の最南端・長崎鼻沖を通過。ここで1回目の燃料タンク交換。大きく揺れるデッキ上で給油ホースを外し、2つ目のタンクに付け替える。エンジンを切ると風と波の音だけが海の上を支配し、急に不安感が募る。再度、イグニションを回す瞬間は祈るような気持ちだ。
「お願いです、かかって下さいっ」。
 錦江湾(鹿児島湾)の湾口を横断すると、前方に佐多岬が見えてきた。黒潮がモロにぶつかる、九州最南端の岬。今回の航海の中でも屈指の難所である。
「とにかく、佐多岬には近づくな。できるだけ沖出しして大回りしていかないかん」
 枕崎で漁師のおじさんに言われた言葉を思い出す。事実、岬に近づくにつれて波は大きく、複雑になり、三角波の中で17フィートの小舟は木の葉のように翻弄され始めた。岬の先端では大平洋のうねりが岸壁にぶつかり、派手な白波を上げている。くわばら、くわばら。これでもかというくらいに、意識的に沖を回り込む。
(つづく)


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