太田黒さんのお宅を後にして向ったのが、松永さんの家。途中、外灯もなく、車のヘッドライトを消せば“真の闇”に包まれてしまいそうな山あいの道を抜けて、2度目の訪問である。
こちらでも、問題なく契約は進行。1712平米ある松永さんの土地のうちの一部、約500平米が畑仕事を代行させてもらうスペースとなる。その料金、1年で5000円。
坪でいうと150坪くらい。初心者にはちょうどいい広さだろう。まずは、半分、もしくは3分の1くらいを耕してみよう。現状を見る限り、土がどうなっているのか(土は全く見えない状態だった)、草木の根がどのくらい張っているのか、皆目見当がつかない。
ここでもイノシシの話が出た。
「うじゃうじゃ、おるですよ」
「植えたら、かつがつ(その都度)食わるるですよ」
「 イノシシとの闘いでしょうね」
松永さんは、悪気はなく、それでも畳み掛けるようにイノシシの恐怖と数の多さを強調した。
「そうですか」
何だか、実感はわかないまま、相づちをうつしかなかった。
「でも、栗の木はあるし、アケビはなるし、よかところですよ。栗はどんどん採ってもらっていいですから。早くせんと、みんなイノシシに食わるるですよ、ハハハッ」
高笑いに見送られて、松永さんの家を後にした。
とにもかくにも、これで準備は整ったのだ。イノシシがいようと、荒れ放題に荒れていようと、週末を過ごす場所が確保できたのだ。
あとは、始めるだけ。理想の居場所作りへ向けて、始めるだけなのである。
(つづく)
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