「役場の人が言うなら」と、お目当ての土地の持ち主である太田黒さんは繰り返した。そして、こうも付け加えた。
「 やるからには中途半端でやってほしくなかね。遊び半分じゃ、できんよ」
「わかってます、いや、わかってるつもり、いやわかってないかもしれないけど、一生懸命やります!」
「そこまで言うなら、よかたい」
「ありがとうございます!」
飛び上がりたいような気持ちを抑えて、ゆっくり頭を下げた。
「ただ…」
「えっ? ただ、何ですか?」
嫌な予感。
「あそこはワシがユンボで石垣を崩して整地しとるけん、ちょっと掘ると石がゴロゴロ出てくるばい。畑には無理と思うがナ。それに小屋と畑を作るほどの広さはなかろう。せっかく植えた杉の苗を抜くわけにもいかんしなぁ」
小屋を建てるにはちょうどいいスペースなのだが、畑も目の前にということになると、確かに狭い。
「一段上の土地はどうね?」
「といいますと」
「うちの土地の一段上にも、昔畑で使いよったところのあるばってん」
「はあ…」
「あそこなら、畑するのによかろう」
「そこなら貸していただけるんですか?」
「いやいや、あそこはうちの土地じゃなかけん。持ち主に聞かんと」
結局は、貸すのが難しいということか。せっかく先が見えかけたのに、また振り出しだ。
「そこの土地の持ち主を探してみましょう」
鹿北町役場の田中さんがそう言ってくれる。
「はい」
「どうしてんいかんなら、うちの土地でもよかばい」
最後には太田黒さんもそう言ってくれた。しかし、考えてみれば狭いのである。ロケーションの素晴らしさに有頂天になっていたが、肝心なことを忘れていた。石なら時間をかけて掘り返しても良かったが、スペースも問題は如何ともし難い。
進みかけたプランは、まだ行き詰まった。
(つづく)
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▲太田黒さん。シャツから出た二の腕は極めて美しい筋肉で構成されていた
▲写真ではわかりにくいか、正面
に一段高くなった場所がある。太田黒さんが所有するのは手前の杉が植えてある面
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