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第03回 2002年10月03日掲載


1アールって、何平米?

「ど、どういうことですか?」
 どうやら農地法の規定上、農地の貸し借りはできないらしい。冗談じゃない。それじゃ、土地を借りて小屋を建て、小屋の前で畑を耕すというプランは最初から頓挫ではないか。

「正確には借りる側が50a(アール)以上耕作できないと、借りられないということです」
 鹿北町役場の田中さんは淡々と答える。
「50あーる? な〜んだ、その50あーるの畑を耕せばいいわけでしょう。でも…」
 恥ずかしながら、最近アールとかヘクタールという単位から縁遠い生活をしているもので、いったいどのくらいの広さなのか、見当もつかない。
「1アールって、何平米でしたっけ?」
「100平方メートルですね」
「ということは、5000平方メートル…。70m×70mの土地ってことですか? そんな広い土地で畑ができるわけ…、フガフガ…」
 あまりのショックに声も出なくなる。
「それに」
 田中さんはさらに追い討ちをかけてくる。
「それに、農地に建物は建てられませんよ」
「……」
  止めの一発。ついに撃沈。絶望の淵に佇んで、今日の夕飯は何を食べようかなどと僕の思考は逃避すら始めていた。
「宅地か山林ならねえ」
「ん? 山林なら小屋を建てられるんですか?」
 土地の登記上、宅地や山林や農地などの種類があることくらいは知っている。
「そうですね、特に制約はないと思います」
「な〜んだ。山林を借りて、そこに小屋を建てて、畑を作ればいいんじゃないですか」
「そうですね」
「川が近くに流れてて、広々としていて、気持ちいい平坦な、そんな山林ありますかね?」
「さあ」


今回も登場の鹿北町役場の田中さん。この人なくしては、今回のお話は語れない







こんな山道をかき分け、かき分け探して回ったのだが…


鹿北ではよく見かける風景。子どもたちは当たり前のように川で泳ぐ、川で遊ぶ

 でも、言葉とは裏腹に、田中さんは優しかった。
「とにかく、鹿北町の中に気に入る場所があるか、見てみてください。 もし、見つかったら私がその持ち主と交渉してみましょう」
 夢のような話である。何度も重ねてお礼を言って、役場を出た。さっそく、鹿北町中を徘徊だ。基本的には川沿いの道をシラミつぶしに走ってみるという方法をとった。かなり小さな川も含め、鋪装されていない林道にもグングン入っていった。
 そうして走ってみると、鹿北町には川が多いことが分った。中心は岩野川。上流に向って遡っていくと、キャンプ場などもある岳間渓谷もある。この本流に対して、いくつもの支流が流れ込んでいて、これがまた魅力的な清流揃いなのである。また、以前に紹介したように、これらの川には多くの古い石橋がかかっている。石橋巡りだけでも十分に楽しめるはずだ。
 さて、延べ2日間、鹿北町中を走り回ることとなった。かなり魅力的なところもあったが、もうひとつ決め手に欠けた。しかも、山林として登記してある土地が前提となるので、現状を見ただけでは小屋や畑のイメージが持ちにくい。
 結局、また田中さんに泣きつくことになった。
「見つかりません。どこかいいところ、紹介してください」
「わかりました、こちらでも当ってみましょう」
 心苦しいばかりの対応に、何度も頭を下げたのだった。
(つづく)


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