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[今週の道具]


搾乳機
 日頃私たちが口にする牛乳は、この機械によって搾乳され、工場で殺菌し、店頭にならび、そして食卓にのぼります。

 搾乳機は、牛にある4つの乳頭に付けられ、真空ポンプによって吸引されます。
 織田さんの牧場では、一日に搾れる量は約130リットル。昨秋できる牛が14頭。牛1頭あたり、平均15リットルの搾乳量 が適正なのだそうですから、織田さん家の牛たちは、ちょっと少なめ。
「牛乳の取れる量は、餌次第というところもあるんですよ。うちの牛たちが食べているのは草原に生えている自然の草がほとんどで、あまり飼料をやらないから、搾乳量 も少ないんです」

 牛乳の取引き価格は1リットル=92円ほど。
 時には、熊本県酪農業協同組合から抜き打ちで牛乳の質について検査が行われることもあり、一定の基準を満たすことができなかった酪農家には、罰金のペナルティーが課せられることもあるのだとか。

「牛が病気だったりすると、牛乳にも影響があるんです。僕も、病気の牛を買ってしまった時には、罰金を受けたことがありますね。今は、もうないですけど」

 酪農家は、日々良質の牛乳を作ることに一生懸命なのです。



織田さんの暮らし


織田さんは、主に朝と夕方、牧場へやってきます。日中は、地元農家の畑でアルバイトをしていることもあるとか












ボリボリ、ボリボリと草をはむ音がうるさいくらい。それ以外は、時折通 る自動車の排気音程度しか聞こえない、静かな環境です


















現在、織田さんが手作りで建設中の牛舎。建築についてはずぶの素人なながら、地元の友達からの手助けもあり、今月中にオープン予定

■阿蘇町ってこんなところ
 人口約1万8000人、世界一のカルデラを誇る阿蘇外輪山の北西に阿蘇町はあります。
  現在も噴煙を上げる中岳を中心に、 広大な草原が広がり、県内外から多くの観光客が訪れる九州を代表する観光地のひとつです。
 織田さんは、阿蘇の市街地に一軒家を借りて生活していますが、主な活動範囲は牧場周辺。牧場にはトイレがないため、すぐ近くの、阿蘇町を一望にできる兜岩展望所のトイレをよく借りるそうです。

■理想の酪農を求めて
 
織田さんは、4年前に国の職員として熊本へやってきました。
 しかし、織田さんには就職する前から、自営業をやりたいという強い気持ちがあったそうです。
「昔から農業に興味があったんです。最初は農家になりたかったんですよ」

  織田さんは、獣医の免許を持っています。獣医学を勉強する中で、牛を診ることが多くなった頃をきっかけに、
農家への興味は酪農へと変わっていきました。
 酪農は、牛舎で乳牛を飼い、搾乳を行うスタイルが主流です。しかし、牛舎で飼っている牛は病気になりやすく、特にダニによる貧血を引き起こすケースが多いのだとか。
「最近は、貧血に効く良い薬ができました。しかし、放牧で牛を飼えば、さらに病気になりにくいということがわかったんで、ぜひ放牧で酪農をやってみたかったんです」

 もし、放牧が無理なら「酪農はやらなかっただろう」とも語る織田さん。
 全国の酪農の状況を調べた織田さんは、奇しくも熊本の阿蘇に広がる草原が放牧に適していることを知り、放牧の酪農をやろうと思い立ったそうです。

「牛舎の中で牛を飼う酪農ならやる価値はないと思った。熊本は25年くらい前に、一度放牧に失敗している。僕が実践例として成功できればと思います」
 織田さんは、低コストで、自然の中で育てる健康的な乳牛の飼育を目指しています。

■牛との暮らし
 織田さんが飼っている牛はすべて乳牛で、全17頭。うち、搾乳できるのは14頭です 。
  牧場の広さは約30ヘクタール。その広さのあまり、借りた当初は自分の位 置を見失うこともしばしばだったとか。

「まわりに何もないんでね。いまでは、どの辺りに何番の牛がいるか、だいたいわかりますよ」

 織田さんは、牛に名前を付けずに番号で呼ぶのだそう。
 BSE、いわゆる狂牛病が流行した頃から、家畜の牛にはすべて10桁の認識番号が振られるように。どこで生まれ、どこで育ち、どんな飼育を受けているかまで、記録されているそうです。
「名前つける人もいるけど、覚えるの大変だからぼくはやらない。でもね、みんな性格が違う。おもしろいですよ」

 毎日、夕方4時を回る頃、搾乳のため、織田さんは「おーっ!」と1km先の牛たちに聞こえるように叫びます。牛たちは、4時のえさの時間を認識し、牛舎へ搾乳のために戻ってくるのだそうです。 (つづく)






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