先日、船釣り名人の取材で唐津へ向かった。47歳の彼は現役の競艇選手。聞けば熊本出身、しかも私と同じ高校、しかも同い年。「それって同級生!」と、予期せぬ出会いに海の上で大いに盛り上がり、取材そっちのけで昔話に花が咲いた。
 当日のお目当ては、呼子沖のイサキ。月の半分は休みで、休みの大半は釣りをしているというだけあって、彼はこの海域の魚礁の位置を熟知。GPSと魚探を駆使しながら、ポイントの上にピタリと船を止め、仕掛けを降ろすと釣れるは釣れるはの入れ食い状態。しかも、外道は一切なし。800g〜1kgクラスのイサキだけが次々に上がり、2つのイケスが一杯になって怒濤の釣りは終了した。
 この時、忙しい釣りの合間を縫って「お土産に持ってけよ」と作ってくれたのがイサキの天日干し。釣れたてを出刃包丁で手際よく背開きにし、海水で洗い、塩を振って、ネットの中に放り込んでおく。あとは、コンスタントに吹く潮風と玄界灘に降り注ぐ太陽の光が水分を飛ばし、表面に皮膜を作り、港に帰るころには極上の干物ができ上がっているというわけだ。高速道路を飛んで帰り、さっそく庭で焼いてみたが、まあ、おいしいのなんの…。干すことによって保存性が高まるだけではなく、タンパク質がアミノ酸になったりするのだろうか、とにかく生で食べるより確実にうま味が増している。しかも、作った人を知っていて、作る行程を見ているから、なおさらうまく感じる。火照った肌を夜風に当てながら、ビールと一緒にのどに流し込むと、深いため息が出た。
 考えてみるに「うまい!」と感じる要素には色々とある。素材の質はもとより、料理法、香り、彩り、食べる場所、食べる相手、一緒に飲む酒なども大いに影響する。その意味で、自然の恵みの中で育った旬の食材を、手間を惜しまずに調理し、気のあった仲間や家族と屋外で食せば、「まずい」わけがないのである。
 ここで「なぜ屋外?」と疑問に思われる方にお答えしよう。屋外では風が吹く。風を意識することをきっかけに、気温や湿度、雲や空、虫や鳥の声、雨の匂いなどが気になり出す。自然を意識し始めると、感覚が敏感になる。敏感になった感覚は、味覚も刺激する。うまいものは、よりうまく、まずいものは、よりまずく感じるようになる。舌が添加物を拒否するようになる。うまいものを探し当てる嗅覚が、ますます発達する。エアコンの効いた、テレビの音が鳴りっぱなしの部屋では、この感覚は退化するだけだ。食べることから喜びが失せ、食事は生命維持のための義務活動となり、心が荒む。
 外で食事をしよう。キャンプに行かなくてもいいから、ベランダや庭で食事をしよう。風を感じながら、雲を見上げながら、うまいものを「うまい、うまい」と言いながら、愛する人と食事をしよう。できるだけ頻繁に。そうすれば、きっと気分がよくなる。
 我が家は借家にもかかわらず、20畳ほどの手作りデッキがあり、常設のダイニングテーブルが置いてある。ここがすこぶる居心地がよい。家族と週末のランチを楽しむための定席でもある。
 そして私の場合、深夜に帰宅しても、ここで食事をするのがお決まりだ。「暑いのに(寒いのに)…。中で食べれば」「蚊に刺されるよ」と、ここまでくると家族の理解は得られない。そのうち、心地よい疲れとアルコールで意識が朦朧となる。次の休みのアウトドアプランを考えながら、今夜も蚊の猛襲を受けつつ、星の下のうたた寝である。
 まあ、それもいいか。それが私の生きる道、アウト道なのである。(終)



アウト道(27)

外で食事をしよう

家にいるのは、もったいない!

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