先週末から今週にかけての8月12日、13日、1泊2日のキャンプへ出掛けた。今回はいつもとちょっと勝手が違って、1歳半の乳幼児がいて、しかもキャンプ未体験の義理の弟家族と一緒に行くことになっていたので、超ビギナー向けのキャンプにする必要があった。
 快適さが最優先されるので、涼しい高原のオートキャンプ場に予約を入れ、ありとあらゆる手持ちの便利なキャンプ用品を車に積み込んだ。いつもの行き当たりばったり、サバイバル的要素を一切含まない、計画性のある由緒正しきファミリーオートキャンプを実践すべく久住高原へと向かったのである。
 たどり着いたのは、緑の芝が美しく、真っ平らな平地が広がる公園みたいなキャンプ場だった。水道、水洗トイレ、シャワー完備である。しかも、当日はほぼ満員状態。普段、なるべく人がいないところを目指して、水もトイレもないところでばかりキャンプをしている身には、どうにも落ち着かない場所だ。それでも、かわいい弟家族のためにドーム型テント、炊事用のヘキサ型タープ、虫が嫌いだという子ども用のスクリーンタープを張りまくった。隣では、説明書を片手に真新しいテントを組み立てているお父さんがいる。その設営スピードの差に少し優越感を感じながら、テーブルを組み立て、椅子を並べ、2バーナーストーブをキッチンテーブルに置いた頃には、ヘトヘトになっていた。直火禁止なのでかまども作れず、焚き火もおあずけだ。「何のためのキャンプなんだ」とぼやきつつも、弟家族をアウトドアの世界へ引きづり込もうという企みの陰で、「何事も最初が肝心。第一印象がその後ののめり込み度を大きく左右するんだ」と自分に言い聞かせる。
 しかし、私はなめていた。施設の整ったキャンプ場であること、すぐ隣には他のキャンパーがいること、夜でも明るいこと、太平洋高気圧が安定した勢力を保ちつつ九州の南西海上に居座っていること。そのいずれもが、自然の中にいるという緊張感をうすくさせていた。地球では風が吹き、雨が降ることを忘れていたのである。考えてみれば、出発の前に天気図もチェックしなかった。2〜3日前に見た週間予報の晴れマークだけが頭の片隅にあった。そんなことは、過去のキャンプ経験の中でも初めてのことだ。
 加えて、テントやタープの設営も手抜きだった。「ま、いいか」と打ち込むペグを間引きし、補強のための引綱も張らないでいた。これが人気のない山奥や無人島、上流域の河原などであれば、十分な下調べと天気の確認、何があっても大丈夫なだけの設営をやるはずだ。誰も助けてくれない。自分で自分の身を守らなければいけないのである。
 まず、ヘキサ型のタープが吹っ飛んだ。間もなく、ねじ曲がったポールが生地を突き破り、スクリーンテントも崩壊した。ドーム型のテントは、半分を足で踏まれたまんじゅうのような形につぶれ、かろうじて地面に這いつくばっていた。
 九州山地は、太平洋高気圧のちょうど西の縁の部分にあたっていた。その縁に沿って南から暖かい湿った風が流れ込んできていた。午後9時過ぎ、当日の長者原には台風並みの突風が吹き下ろし、1歳半の子どもはつぶれた万十の中で泣き続けた。結局、強風は朝まで収まることはなかった。こんな風は、台風が直撃した宮崎の志布志湾でテントを張った時以来だった。
 翌朝、弟家族は憔悴しきった顔で「こんなことよくあるんですか」と聞いてきた。照れ笑いをしながら「そんなわけないだろう」と返事をする。隣を見ると、ビギナーらしいお父さんが立てたテントは、しっかりと立ち続けていた。
 自然をなめるな。基本に忠実に。

アウト道(17)

油断大敵、地球では風が吹く

お盆休みの強風キャンプ体験

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