「お父さん、トマトのわき芽、とっといたよ」
 小学5年生になる娘が、食卓でそうつぶやく。
「今年はミニとミディーと桃太郎の三段構えだ。夏になったら、好きなだけ食わしてやるからな、ハ、ハ、ハッ」
 わが家では、狭い庭の一番日当りのいい一等地に、4坪ほどのささやかな畑を開墾している。「アウト道」などと大袈裟に銘打っているわりには、いきなり「家庭菜園」かよと思われる方がいらっしゃるかもしれないが、私は菜園づくりも立派なアウトドアだと思っている。初夏の風に吹かれながら、土の感触を手や足の指の間に感じながら汗を流す快感は、まぎれもなく自然との接点を楽しむアウトドアのそれである。
 家庭菜園は、同じアウトドアの楽しみのひとつ、釣りに似ているのも特徴だ。釣りの醍醐味は、見えない水の中の魚とのやりとりにある。その日の天候や気温、風などを考慮して「きっと魚はここにいるはずだ!」と勝手な仮説を立てる。その仮説を実証するために、最も効果的だと思われる仕掛けとエサを考え、大物の予感に胸を震わせながら糸を垂らすのだ。
 菜園の場合も、"キモ"は土の中にある。見えない土の中で起きていることが、収穫の具合を大きく左右する。加えて、天候の影響が大きいのも共通点。いずれも、自分が立てた仮説が実証されて、大いなる自然の恵みに出会えたとき、身震いをするような感動が全身を貫くのである。
 さて、何でこの時期に菜園の話をしているかというと、今が夏野菜を植えるラストチャンスだからである。トマト、キュウリ、ピーマン、ナス。夏野菜四天王の苗は、明日にでも植えるべきである。比較的育てやすく、使用頻度は極めて高い食材ばかりだ。今すぐ植えれば、梅雨明けの頃には自家製の野菜を肴に、うまいビールが飲める(かもしれない)。想像する楽しみ、育てる楽しみ、収穫する楽しみ、食べる楽しみ、そして語り合う楽しみ。楽しみは5段階に変化し、段階を経るごとに高揚していく。とにかく、野菜たちが愛おしくなるはずだ。
 できれば、家族を巻き込みたい。子どもと一緒に苗を選び、土を耕し、成長を見守ろう。子どもの食材に対する興味は間違いなく高まり、食べ残しが少なくなるだろう。プランター栽培でもいい。失敗してもいい。難しく考えずに、苗1株からとにかく始めることをおすすめする。
「お父さん、そろそろ支柱を立てた方がいいんじゃない?」
 生意気ではあるが、なかなかかわいい娘のセリフである。

 明日、野菜の苗を買いに走ろうと決心したアナタ、今年の夏はアナタにとってきっと特別なものになるはずだ。

アウト道(2)

自然を食する楽しみ

明日、夏野菜の苗を植えるべし

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