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佐賀関港へ


チャートを見るのも楽になった

 

 そこからの行程は速かった。佐賀関を目指し、佐伯湾、津久見湾、臼杵湾の沖を一気にラムラインで走る。漁船の数が増え、太陽が素肌を照りつける。佐賀関に近づくにつれて、船団も大きくなる。

「アジ、サバですかね」
「多分、そうでしょう」
「まいったなあ〜、関アジかぁ。」

 それまでの苦労はすっかり忘れ、気持ちはすっかり釣りに向っている。こうなれば、一刻も早く佐賀関へ入り、情報とエサを入手して夜の食材を調達しなければいけない。

 午後1時10分、関崎燈台を回ると巨大な煙突が見えてきた。後で調べたら「東洋一の大煙突」と書いてあった。とにかく大きくて、海からの目印には最適の煙突である。

 午後1時30分、佐賀関港入港。港の一番西寄りのこじんまりした港に入っていった。しかし、寸分の隙き間もなく漁船が泊まっている。
「ここは着けられんぞ」
 堤防の上からおじさんに怒鳴られる。シッシッと手で追い出すような仕種をしている。感じ悪い 。

「どこならいいんですかぁ!」
 こっちも大声になる。
「向う、あっち」
 堤防の端を指差している。
「わかりました。ありがとうございます」

 余談だが、この「ありがとう」という言葉は非常に便利であることに今回の航海で気付いた。この言葉は人の心を柔らかくする、距離を縮める。困った時、緊迫した時、険悪になりそうな時ほどこの言葉が有効に機能するのだ。何度もそれで助けられた。

  考えてみれば、こちらは得体の知れない真っ黒な中年男だ。不審がられても仕方ない。気持ちを解す努力は、こちらの方からするべきだろう。

 言われた通りに、港の出入口に近い方の堤防に接岸する。船尾からアンカーを打ち、船首を堤防に舫う。船を止めると、ドッと汗が吹き出た。
(つづく)


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