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恐怖の鶴御崎


宮崎港の夕焼け



夕食の支度シーン。翌朝、佐賀関を目指して出港




最後の洗礼となった
鶴御崎でのハードな航海

 

 九州最西端の岬、鶴御崎には一度、陸路で訪れた事がある。
 岬の展望台に立つと、はるか眼下には紺碧の速吸瀬戸が横たわっている。対面 には薄らと四国の稜線。そこは九州と四国が最も接近する場所、大平洋と瀬戸内海とが行き来し、入れ替わり、ぶつかり合っている海域だ。

 あまりの碧さと雄々しさに、怖さを覚えたものである。まさか、その海を17フィートのボートで走るなんて、考えもしなかった…。その時は。

 背後から押し寄せてくる加速を増したうねりがぶつかり、砕ける速吸瀬戸の入り口を走りながら、頭の中には岬の上から見た俯瞰図の中にいる自分の姿がずっとあった。波に翻弄され、木の葉のように揉まれながら、遅々として進まない我がボートの姿である。風も上がっている。まわりは白波だらけだ。

 一瞬、操船を過った。それまでにない巨大なうねりを下る途中、減速するのが遅れ、スピードが乗ったままうねりの谷間に突っ込んだのである。

 バウが波に突き刺さる。同時に大量の海水がデッキ上に流れ込んできた。足下はバスタブ状態になり、床に置いていた荷物が浮き上がる。一瞬「ヤバイ」と、体が硬直。

 幸いパルピットに当って荷物の流出は免れた。アクセルを全開、目の前のうねりを乗り越えようとすると船尾から海水が流れ出していってくれた。
「あ〜、びっくりした」
「こ、こっちはマズイです」

 コースをショートカットしようとして、小さな島の内側を通ろうとしていたのである。そこは水路がさらに狭くなり、グチャグチャの海になっていたのだ。

 島の外側を大回りして、広い方の水路を行く。それでも複雑怪奇な波の中で、揉まれ、叩かれ、打ち込まれながらの操船である。アクセルはヒステリックに動かしっぱなし、左手は吹っ飛ばされないように体をホールドするのに精一杯である。

 そんな状態が30分ほど続いただろうか。午後12時30分、トンネルを抜けたら景色が変わるように、鶴御崎をかわすと突然海が静かになった。

 終わったのである。大平洋との格闘が、ついに。
 風は相変わらず強かったが、うねりはとこかへ消えていた。それまでは10ノットそこそこの走航が続いていたが、20ノットを出してもあまり体に堪えない程度の海に一変。気付けば頭の上には灼熱の太陽。 目の前には、穏やかな佐伯湾が広がっていた。
(つづく)


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